わたしのはじめての水着は、きいろの水着でした。
今も、プールと聞いただけで、きいろい水着が目に浮かぶのは、そのせいでしょうか。
いえ、それだけではないのです。
・・・
幼稚園の年長組のとき、父の仕事の都合でカリフォルニアに住みました。
春先から秋まで泳げるあたたかな土地で、しょっちゅう大学のプールに連れて行ってもらいました。
しかし、楽しい水遊びのあとには決まって、父の「特訓」が待ち受けていました。
わたしは、水に顔をつけるのが、まだこわかったのです。
プールの隅に向き合って立ち、「さあ、つけなさい」と言われます。
水面をじっと見つめ、「うっ」と息を止め、つけようとするのですが、できない。
「うっ」「うっ」何度試みても、どうしても鼻が水面までたどりつかない。
だんだん父の声が冷たくなり、日も暮れ始め、水温も下がってきます。
しまいに半べそをかきながら、思い切って「じゃぼっ!」
・・というより「ぴちゃっ」と一瞬顔面を濡らす。
すると、父もあきらめて「よし、帰ろう」と言ってくれるのでした。
一度つければ、次回はすぐできそうなものなんですけどね。
それが、毎度かたくなに「うっ」「うっ」を三十分は繰り返さないと、だめなんでした。
さて、そんなプールの片隅での特訓中に、ことは起きました。
上空が一瞬、まっきいろになったかと思うと、わたしは水底に沈められていました。
がぼがぼがぼ・・・な、なにがなんだか。溺れながら、頭がぐるぐるしました。
頭上から「きいろいおしり」が降ってきた!?
のどと鼻からしこたま水を飲んだあと、プールサイドに助け上げられました。
きいろい水着を着た、半端じゃなくかっぷくのよいおばさんが、
「ソーリー、ソーリー」と甘い声をはりあげて謝っていました。
横で「ドント ウォーリー、ザッツ オーライ」と答える母に向かって、
わたしは、むせながら「ザッツ オーライじゃないよっ!!」と、くってかかりました。
・・・
わたしが泳げるようになったのは、それから間もなくのことです。
(2004.9)
(・・水着はいい写真がないなあ・・)