Enfant de Poche 子どものポケット
「子ども」にまつわるひとりごと、つらつら。
感謝祭

11月の第4木曜日は、「感謝祭」(Thanksgiving day)でしたね。
だからといって、うちで七面鳥を食べたりするわけでなし、
ただ、ああ、サンクスギビング・デーだったなあ、
と、ほろ苦く思い出すだけです。

5歳の晩秋でした。
10月末にアメリカの幼稚園に転園させられてから、1カ月。
目を白黒させながらも、先生の言うことを理解するために
全身を目と耳にするくらいの緊張感でもって、がんばってました。

紙とクレヨンが配られ、「○○の絵を描きなさい」と言われたのは、わかった。
でも、○○の意味が、どうしてもわかりません。
何をどうわからないということも、伝えられない。
つまり、わかったふりをするしかない。

大好きな絵の時間なのに、困ったわたしは、
隣の男の子の絵を模写することにしました。
描いているうちに、テーマがわかるだろうから、
そしたら、自分の絵にすればいいんだもの。うん、なかなかかしこい。

・・・誤算でした。彼は、とてつもなく絵がへただったのです。
模写をしても、しても、何を描いているのか、わかりませんでした。
いったい何を描いているのだろう、彼は。
そしていったい何を描いているのだ、わたしは。

これは、苦行です。
ううう・・・と脂汗をにじませながら、必死で正確な模写を続けていたら、
またも予期せぬことが!

彼は絵を描き終えて、提出してしまったのです!
ま、まさか。これで完成? なんだ、これは。なんの絵なんだ!?
わたしは、わけのわからない自分の絵を完成させることができず、
脂汗は滝となり、1カ月の緊張の糸も、ぶっつり。
大声で泣き出しました。
うおーんおんおん。
ええ、もう、この世の終わりのように。

先生もびっくり。クラスメートもびっくり。(もちろん模写されていた彼も)
なにが起きたのか。なんでこの子はこんなに激しく泣いているのか。
ぐあいが悪いのか。蜂に刺されたのか。
もちろん説明不能です。
おーんおんおん。
どうして泣きやむことができましょう。こんなに悲しいのに。

他のクラスの日系二世の先生がやって来て、「ドシタノ?」と尋ねます。
おーんおんおん。
隣接の小学校から兄が呼ばれて、来ました。
う、うお、おーんおんおん。
授業は中断、なんかものすごい人だかりのまん中で、
うおーんおんおん。
自宅へ電話、母が呼ばれました。
・・・
おうっ、おうっと泣きじゃくるわたしの言うことを、
母がなんとか先生に説明し、事件は落着したようです。
(このへんは、よくおぼえてません)
翌日からどんな面して幼稚園に通ったのかも、おぼえてません。
絵のテーマは “Thanksgiving day”だったのだと聞き、
「しらねーよ!」と、憤ったのをおぼえています。

(2004.12)


(一生分の緊張を使い果たしたと思われる、5歳のころのパスポート写真)

前へ