Livre d'Image 絵本のポケット
気ままな絵本案内
片山健さんの絵本のこと、すこし。
先週の日曜日。
日が暮れてもまだ頬がほてっているような、幸福なインタビューの仕事を終えて家に帰ると、古書店で注文していた絵本が届いていました。
(ああ、午前に着けば間に合ったのにな)
さっきまでお話していた片山健さんの処女絵本『マッチのとり』でした。
1966年の私家版はもうほとんど入手不可で、これは82年に復刊された喇嘛社版ですが。
気を失うほどお腹を空かせていたという、若い画家の鉛筆から生まれた幻想に、じっと見入りました。

この2年後に、『ゆうちゃんのみきさーしゃ』(作=村上祐子 福音館書店 「こどものとも」1968年7月号)が生まれたわけですね。
幼稚園でもらったこの本を、わたしはたいそう気に入って、数ヶ月後に家族で渡ったアメリカでも、飽かず繰り返し読んだものです。
苦く不安定な幼年期、甘いクリームの幻想のなかにとっぷり浸からせてもらってました。
子どもがあたりまえのように行き来できる、ふしぎへの入り口。
あわあわとした油彩、たくらみのない隙間や歪みもふくめて、
あの頃に出会えて、よかったな。
すぐ翌年に描かれた自作絵本『もりのおばけ』(「こどものとも」1969年11月号/左は80年の普及版)は、いきなり、あっと驚く、すごい「絵本」になってるんですけど。
これは復刊が待たれる一冊です。
・・・
長々と中略。とんで昨年。
『きはなんにもいわないの』(学研「おはなしプーカ」2004年10月号/左は2005年10月刊の単行本)と書店で出会い、ふるふると震えがきました。
この広々とした父性。子どもに注ぐ繊細なまなざし。
思えばーー
日々恥ずかしくあぶなっかしく、それでもごうごうと生きていた5才のころから、
だいぶん開き直り、そうとう生命力は衰えたものの、あんまり変わってない今にいたるまでーー
片山さんの絵本が、そばにあったのです。

(2005.11)
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(読売新聞毎週月曜夕刊に掲載)